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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)60号 判決 1967年12月22日

原告 エツソ・スタンダード石油株式会社

被告 東京都千代田税務事務所長

主文

被告が、原告の昭和三八年四月分から同年八月分までの軽油引取税の各納入申告について、同年一一月一九日付更正第四〇号ないし第四四号をもつてした各更正処分及び過少申告加算金の決定をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

主文同旨の判決を求める。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二原告の請求原因

原告は、地方税法(以下「法」という。)第七〇〇条の二第一項第二号に定める軽油等の元売業者であり、同条の一一第一項及びこれにもとづく東京都都税条例(以下「条例」という。)第一〇三条の六の規定により、自己の営業所において直接管理する軽油の引取に対する軽油引取税の特別徴収義務を負うものであるが、被告に対し昭和三八年四月から同年八月までの各月に徴収すべき各軽油引取税の納入申告書を提出したところ、被告は、同年一一月一九日付更正第四〇号ないし第四四号をもつて、右申告に係る各月の課税標準量及び税額を増額更正するとともに、過少申告加算金の賦課決定をし(以下両処分を合わせて「本件更正処分」という。)、別表記載の税額及び加算金額を同年一二月五日まで納入すべき旨を告知してきた。これに対し、原告は、同年一二月三日付で東京都知事に審査請求をしたが、同知事は昭和四〇年三月二日付で右請求棄却の裁決をし、同月三〇日その裁決書謄本が原告に送達された。

しかしながら、右更正処分は後記のとおりの事由により違法であるから、その取消しを求める。

第三被告の答弁及び主張

一、請求原因事実は、本件更正処分が違法であるとの点を除きすべて認める。

二、被告は、原告が昭和三八年四月から同年八月までの間に訴外鱗商事株式会社(以下「鱗商事」という。)に対し別表販売量記載の軽油を販売した事実にもとづき、同商事のこの引取に対して課税される軽油引取税につき、原告をその特別徴収義務者と認めて本件更正処分をしたものであつて、その詳細は次のとおりである。

(一)  軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取(特約業者の元売業者からの引取及び元売業者の他の元売業者又は特約業者からの引取を除く。)に対し、容量を課税標準として、当該特約業者又は元売業者の営業所所在の道府県において、その引取を行う者に課するものである(法第七〇〇条の三第一項)が、その徴収については、特別徴収の方法によらなければならず(同条の一〇本文)、この場合においては、特約業者又は元売業者その他徴収の便宜を有する者を当該道府県の条例によつて特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならないものとされている(同条の一一第一項)。そして、これにもとづき前記都税条例第一〇三条の六は、特約業者又は元売業者を右の特別徴収義務者に指定し、これらの者の営業所ににおいて直接管理する軽油の引取に対する軽油引取税を徴収すると定めている。すなわち、これらの規定によると、元売業者からの軽油の引取は、引取を行う者が他の元売業者又は特約業者でないかぎり、軽油引取税の課税客体となり、当該元売業者が右引取税の特別徴収義務を負うこととなるのである。ところで、右にいう特約業者の意義について、法第七〇〇条の二第一項第三号は、「元売業者との間に締結された販売契約に基いて当該元売業者から継続的に軽油その他の石油製品の供給を受け、これを販売することを業とする者をいう。」と定義しているから、軽油等の販売業者が右の特約業者(通常、特約店又は特約販売店とよばれる。)となりうるためには、たんに元売業者から継続的に軽油等の供給を受けているだけでは足りず、当該元売業者との間に「販売契約」を締結していることが必要であるところ、この「販売契約」がいかなるものをいうかについては、軽油取引の実情に即し、税法上特約業者が元売業者と並んで軽油引取税の特別徴収義務者とされていることとの関連において、これを検討しなければならない。すなわち、法が軽油引取税について元売業者のほかに特約業者をも特別徴収義務者としたのは、元売業者が直接大口需要者に販売する場合を除いて、元売業者―特約店―副特約店―小売店―消費者と系列販売され、これが元売業者の軽油販売の大部分(約九割)を占めているので、元売業者だけに軽油引取税を特別徴収させるときは、元売業者所在の道府県に財源が偏在してしまい、他面、副特約店以下の者に特別徴収させることも徴税技術上困難であるなどの理由から、右述のような軽油の販売型態に着目して、元売業者の第一段階の下部販売組織で信用力もある特約店の段階において軽油引取税を徴収しようとしたものである。そして、このような系列販売における元売業者の最大関心事は、自社軽油の販売の拡張、信用の保持、商標の正当な継続使用、価格の維持等であつて、これらはいずれも特約店の販売力や信用力によつて左右されるものであるから、元売業者としては、特約店を選定するについて慎重のうえにも慎重を期し、事前にその信用調査等を十分に行うことはもとより、自己の特約店に対しては、商品の供給及び販売条件等を厳格に規制するとともに、その経営の維持、育成についても種々の記慮をしてやることが必要となり、あたかも親子の間柄にも比すべき密接な関係を有することになる。かくてわが国の軽油取引業界においては、元売業者が特定の販売業者を特約店と定める場合には、両者の間において、いわゆる特約店契約とよばれる特殊の契約により、(イ)商品の供給条件(供給する軽油の数量、価格)、(ロ)商品の販売条件(特約店の販売区域、販売価格及び販売方法並びに商品、銘柄、標章等の不改変)、(ハ)元売業者の商標の使用、(ニ)商品の受渡条件(代金及び代替金の支払方法、担保の提供、損害金、期限の利益の喪失等)、(ホ)通知又は報告事項、(ヘ)解約方法、(ト)管轄裁判所等各般の事項について明確な取り決めをし、しかもこの契約はほとんど例外なく書面によつて締結しているのが実情であり、また元売業者の取引先の分類上も、特約店と一般需要家とは一目で分明になるように別扱いにしているのが普通である。このような業界の慣行は、元売業者が特約店に対する軽油の販売についてまで誤つて軽油引取税の特別徴収義務を負わされることがないよう販売先が特約店であることを明確に立証できるようにしておくという実際上の理由からも必要なことであつて、もし特約店契約が口頭で締結されたとしたならば、元売業者から特約店に対する軽油の販売について、元売業者は特約店契約の存在を主張するのに対し、特約店であるはずの相手方はその不存在を主張するというような事態を生じ、特別徴収義務の所在が不明となり、意識的に脱税が行われ、ひいては脱税を目的とする販売業者が続出するにいたり、そうなれば、課税主体の徴税が不可能となるか、あるいは元売業者が特約店であるはずの者に販売した軽油について常に特別徴収義務者としての地位に立たされるかのいずれかとならざるをえない。かような結果は元売業者として絶対に避けなければならないことであるから、この点からしても特約店契約を口頭で締結するなどということは実際上ありえないということができる。法第七〇〇条の二第一項第三号は、以上のような業界の実態及び取引慣行等を考慮して特約業者の意義を定めたものと解される。すなわち、同号にいう「販売契約」とは、各元売業者によつてその契約事項に多少の相違があるにせよ、少くともたんなる軽油等の売買契約ではなく、前記のような各種の規制を内容とする特殊な契約(しかも、原則として書面による契約)を指すものであり、かかる契約を元売業者と締結し、その契約にもとづいて当該元売業者から継続的に軽油等を受け、これを販売することを業とする者すなわち前記の特約店にあたる者であつてはじめて特約業者といいうるのである。

(二)  本件処分の経過

昭和三八年四月一九日、前記鱗商事の代表取締役石田順一が千代田税務事務所に来所し、法第七〇〇条の一二第一項にもとづき、同商事の軽油引取税特別徴収義務者としての登録申請をしたが、その申請書類には特約店契約書又は特約店契約を締結したことを証する書面がなかつたので、審査にあたつた同事務所係員大滝悟が石田に対し右書面の呈示を求めたところ、「近日中に原告と特約店契約を締結する予定であるから、原告東京支店の販売第二課長浜口裕彦に電話で確認されたい。」とのことであつた。そこで、大滝は直ちに右浜口に電話で照会したところ、同人からも、「原告が近く鱗商事と特約店契約を締結する予定である。したがつて、同商事の登録申請を是非受理してもらいたい。」との懇請があつたので、被告は、日本有数の大手元売業者である原告の販売責任者の右回答からして、原告と鱗商事との間に近く法第七〇〇条の二第一項第三号の「販売契約」が締結されるものと信じ、即日同商事の前記登録申請を受理し、同条の一二条第二項にもとづき同商事に対し軽油引取税の特別徴収義務者たることを証する登録証票を交付した。ところが、同年七月二三日原告社員前記浜口が千代田税務事務所に来所し、「鱗商事と特約店契約締結の準備中であつたが、本契約締結の段階にいたつたので、特約店としての適格があるかどうかを判断するため同商事の納税状況等を知りたい。」旨の申出をしたので、これにより被告は、原告と同商事との間にまだ特約店契約が締結されていなかつたことを知り、改めて右契約の有無及び軽油の引渡状況等を調査するため、被告係員大滝らが、同年八月一三日鱗商事事務所において、また同年九月五日及び同月三〇日原告東京支店において、それぞれ関係書類の検査を行ない検討したところ、同年四月から八月までの間に原告から鱗商事に対し別表販売量記載のとおり軽油が売り渡されていたが、同商事の軽油の販売方法はおよそ特約業者らしからざるものであり、原告と特約店契約等を締結した書面もなく、また原告の取引先の区分上も同商事は特約業者として取り扱われていないことなどから、原告と同商事との間に法第七〇〇条の二第一項第三号にいう「販売契約」が締結されたものとは認められず、同商事は当初から原告の特約業者ではなかつたことが判明した。したがつて、鱗商事の原告からの前記軽油の引取は、法第七〇〇条の三第一項かつこ書によつて課税客体から除かれる「特約業者の元売業者からの引取」に該当しないので、この引取に対する軽油引取税については、当初から、元売業者たる原告が特別徴収義務者としてその申告納入義務を負うべきものであつた。そこで、被告は、さきに鱗商事を原告の特約業者と認めて登録証票を交付したことが誤りであつたことを明らかにするため、同年一〇月一二日付で同商事に対しその旨を事実上通知するとともに、同商事が原告から引取つた軽油の販売につき特別徴収義務者としてすでに納入済みであつた同年四、五月分の軽油引取税及び延滞金等合計二四六万九、九二四円の納入金を法第一七条の過誤納金として還付する手続をとり(ただし、現在まで同商事が受領しないので、被告がこれを保管している。)、他方、原告に対しては、原告が同商事に販売した軽油の容量を課税標準として、法第七〇〇条の三〇第一項及び同条の三三第一項の規定にもとづき本件更正処分を行つたものである。

以上のとおりであるから、本件更正処分は正当である。

第四被告の主張に対する原告の答弁及び反対主張

一、鱗商事が昭和三八年四月一九日千代田税務事務所に軽油引取税特別徴収義務者としての登録申請をし、同日登録証票の交付を受けたこと、その際同事務所係員大滝から原告東京支店販売第二課長浜口に電話があり、また同年七月二三日にも右浜口が同事務所に赴いたこと、同年九月五日原告東京支店が被告の調査を受けたこと、原告が鱗商事に対し同年四月から同年八月までの間に別表販売量記載のとおり軽油を販売したが、同商事との間において特約店契約書その他の契約書は作成していなかつたこと、この軽油について原告は軽油引取税の納入申告をせず、鱗商事がこれを他に販売して同年四、五月の軽油引取税及び延滞金等を申告納入したこと、以上の事実は認めるが、被告のその余の事実上及び法律上の主張は争う。

二、本件の事実関係は次のとおりである。

鱗商事代表取締役石田順一は、原告の前身スタンダード・バキユーム・オイル・カンパニーの代理店に勤めていたことがあり、原告東京支店長らと面識のあつた者であるが、昭和三八年三月下旬頃同人から原告東京支店に対し、軽油販売等を業とする鱗商事株式会社なる会社を設立して知合いの会社に軽油を納入するから、原告と軽油取引をしたい旨の申出があつたので、原告東京支店においては、同商事の資本金、取引銀行等を審査、確認したうえ、右申出を承認することとし、同年四月九日、同商事との間において、取引商品―軽油エツソ・デイーゼル、出荷場所―原告鶴見油槽所、運送方法―油槽トラツク、仕切値段―一リツトル当り一二円五〇銭の税抜価格、支払条件及び担保方法―現金担保方式による月末締切り月末現金払(鱗商事が購入する軽油代金額以上の現金をあらかじめ原告に担保として預託しておき、原告はその範囲内で軽油を同商事に売り渡し、月末締切で右現金により代金を決済のうえ残額を翌月に繰越す取引方法)、年間予想取引量―一、二〇〇キロリツトルなどとする軽油類の継続的販売契約を締結し、同商事は原告から供給を受けた右軽油を一般に販売することとした。そして、この契約にもとづき、鱗商事は即日担保として現金二〇〇万円を原告に預託したので、原告は、顧客と継続的取引を開設した場合に作成する顧客簿(甲第一号証)を同商事についても作成し、同年四月一六日を初回として同年八月末までの間に別表販売量記載の軽油をいずれも前記税抜価格で同商事に売り渡したが、これに対し同商事は、前記約定にしたがい、前後一六回にわたり合計二、一五〇万円の現金を担保として事前に追加入金したので、右の取引代金はこの現金によつて毎月末に決済された。この間、鱗商事は、前記のとおり、同年四月一九日に被告に対し軽油引取税特別徴取義務者としての登録申請をし、登録証票の交付を受けたが、その際被告係員大滝から原告社員前記浜口に対し、鱗商事が原告の代理店であるかとの電話照会があつたので、浜口はこれを肯定する回答をした(被告の主張するように、近く同商事と特約店契約を締結する予定であるから、同商事の登録申請を受理してもらいたいというようなことを述べたことはない)。その後、同年五、六月中に鱗商事の原告からの軽油引取量が急増したので、原告は、売主としての立場上、同商事の軽油引取税納入状況を確認しておくため、同年七月二三日、前記浜口が千代田税務事務所に赴き、大滝係員から、四、五月分の引取税は納入済みである旨の確認を得た(その際、浜口が大滝に対し、鱗商事と特約店契約締結の準備中であつたが本契約締結の段階になつたなどと述べたことはない)。ところが、鱗商事が同年六月分以降の軽油引取税を滞納し、結局倒産状態となるや、被告は、同年九月頃にいたり、原告に同商事の滞納税額を支払わせるため、右滞納税額について任意連帯保証すべきことを原告に対して要求したので、原告がこれを拒絶したところ、態度を一変して、鱗商事は当初から原告の特約業者たる実質を具えていなかつたから、同商事に対する登録証票の交付は無効であり、同年一〇月一二日付でその取消ないし無効宣言をしたと称して、同商事の原告からの軽油の引取については原告が当初から軽油引取税の特別徴収義務を負うものであると主張し、本件更正処分をするにいたつた。これが本件の経過である。

三、以上の事実関係によれば、本件処分には次のような違法のかどがある。

(一)  右に述べたとおり、鱗商事は、昭和三八年四月九日軽油等の元売業者である原告と軽油の販売契約を締結し、この契約にもとづいて原告から継続的に軽油の供給を受け、これを販売することを業としていた者であるから、法第七〇〇条の二第一項第三号の特約業者に該当し、したがつて同商事の原告からの軽油の引取に対しては、同条の三第一項かつこ書により軽油引取税が課税されないものであり、原告がその特別徴収義務を負担すべきいわれはない。

被告は、右特約業者の意義、就中その要件であるところの「販売契約」がどのようなものであるかに関し、業界の実態や取引慣行等をあげて、種々の要件を必要とするかのように論じ、原告と鱗商事との間にはそのような「販売契約」が存在しないから、同商事は原告の特約業者にあたらないと主張するが、被告の右見解は法の規定を無視した独断である。すなわち、法第七〇〇条の二第一項第三号は、特約業者の要件として、(イ)元売業者との間に販売契約を締結し、(ロ)その販売契約にもとづき当該元売業者から継続的に軽油等の供給を受け、(ハ)これを販売することを業とする者であることを必要とするとともに、これをもつて足りるとしているのであつて、元売業者との間に人的、社会的、感情的、営業的その他なんらかの意味において密接な関係があること、あるいは元売業者の取引先の区分上一般需要家と区別されていることなどはなんら必要としていないし、元売業者が特約業者を選定するについてどれだけの信用調査等をするかもまつたく法律上の問題ではない。また、右の「販売契約」なる用語自体の中に特約業者の意義を定めるのに役立つ特別の法律要件が含まれているわけではないから、それがどのような内容の契約をいうかは、法文の定める他の要件、すなわち、(イ)元売業者と軽油等の販売を業とする者との間の契約であること、(ロ)軽油等の販売を業とする者が当該元売業者から軽油等の供給を受ける契約であること、(ハ)その供給が継続的であること、によつて規定されるものであり、それ以上の要件を必要としない。被告は、そのいわゆる特約店契約の内容として多くの項目をあげるが、これらは元売業者との間の軽油等の供給関係が継続的であることを示す限りにおいて法律上意味があるにとどまり、右項目自体が「販売契約」の独立の要件をなすものではなく、これを特殊の契約であると強調するのはまつたく根拠がない。更に、「販売契約」の形式についていえば、右契約を書面によつて締結するという場合はあろうけれども、それが業界の通例であるとはいえず(原告の従来の取扱いとしても、特約業者がガソリンスタンドを経営している場合には、これに対して資金を貸しつけるほか、取引額も多額に及び、不動産担保を設定するなどの必要から、所定の「販売代理店契約書」(乙第二号証)を作成するのが通常であつたが、ガソリンスタンドを経営していない特約業者とはほとんど右の契約書を取り交していなかつた)、もとより書面によるべきことが法令上要求されているものではない。販売契約が書面によつて締結されていないからといつて、被告の危惧するように、元売業者と取引する特約業者が右契約の不存在を主張するなどということは、特約業者が税込価格で軽油の引渡しを受ける資金負担面の損失を考えれば、実際上とうていおこりえないことである。そもそも、元売業者と軽油等の供給について契約関係にある販売業者が法にいう特約業者にあたるかどうかは、軽油引取税の特別徴収義務の所在を決定する重大な事柄であるから、その要件は、法令又は条例によつて明確に規定されるべきものであり、また、この要件を課税当局の恣意的解釈によつてみだりに拡張することは許されない。もし被告の主張するような内容・形式の契約でなければ法にいう「販売契約」でないというのであれば、そのような内容、形式が法令上明確に定められているが、少くとも課税当局の行政指導等の措置によつて一定の基準が明らかにされていなければならない。しかるに、法にはもとより、登録申請書の記載事項を定めた条例第一〇三条の八の規定にすら、そのようなことを要求する趣旨は窺われず、また被告も右のような行政指導等はまつたくしていないのである。以上を要するに、元売業者と軽油等の販売業者との間において軽油等の販売契約が締結されている場合に、それが税法上の「販売契約」であるかどうか、したがつて右の販売業者が「特約業者」にあたるかどうかは、ひとえに、その契約が軽油等の継続的供給を内容とするものであるか、それとも非継続的・単発的な供給を内容とするものであるかによつて決定すべきであり、他に被告の主張するような要件はなんら必要としないと解するのが正当である。

してみると、原告と鱗商事との間に締結された契約が軽油の継続的供給を内容とするものであつて、法にいう「販売契約」にあたることは明白であるから、「販売契約」の不存在を理由として同商事が原告の特約業者でないとした被告の認定は明らかに誤りである。

(二)  そればかりでなく、被告は、鱗商事に対する登録証票交付行為の効果として、同商事を軽油引取税の特別徴収義務者として取り扱わなければならない。

すなわち、法第七〇〇条の一一第一項及びこれにもとづく条例第一〇三条の六の規定の仕方からみると、特約業者又は元売業者たる者は、行政庁の具体的な指定行為等をまつまでもなく、当然に軽油取引税の特別徴収義務者となるものであることはたしかである。しかし、他方、法第七〇〇条の一二及び条例第一〇三条の八によれば、右の特別徴収義務者は、営業所の経営を開始しようとする日の前五日までに営業所ごとに当該営業所における特別徴収義務者としての登録を一定の事項を記載した文書によつて知事に申請しなければならず、知事が右申請を受理したときは、申請者に対して特別徴収義務者であることを証する登録証票を交付すべきものとされ、この証票の交付を受けた者は、これを営業所の公衆の見易い箇所に掲示し、営業所閉鎖の際は知事に返還することを要し、証票の譲渡、又は貸与を禁じられるなどその取扱いが法定されており(以上の違反に対しては法第七〇〇条の一三第一項に罰金の制裁がある。)、また、知事としては、登録を申請した者が法の定める特約業者としての実質を有することを調査、確認したうえで登録証票を交付すべく、もし右の実質を欠くと認めた場合には、証票の交付を拒否すべき義務があることは当然である。これらの点からみると、知事が登録証票を交付する行為は、それがなければ特別徴収義務が全然発生しないというものではないが、さりとてなんらの法的意味も有しない行為ではなく、少くとも特別徴収義務の帰属に関する課税主体の公権的認識を法の規定に従つて表示する公証行為であるというべきであるから、課税主体がある者を特約業者と認めてその者に特別徴収義務者としての登録証票を交付した以上、その誤りであることが何人の目にも明らかであるというような場合は格別、そうでない限り、右証票の交付を受けた者と取引する元売業者としては、客観的な特別徴収義務の帰属を問うまでもなく、右の公証されたところにしたがつて行動すれば足り(当然に税抜きで販売してよい)、万一これが誤りであることが後日判明したとしても、少くともその誤りによる不利益を免れうるものであり、また課税主体としても、みずからがした証票交付行為の効果として、当該交付を受けた者を特別徴収義務者(特約業者)として取り扱わなければならず、右の認定に過誤のあつたことを知つた場合でも、一般原則に従い、証票交付行為を将来に向つて取り消すこと、すなわち徹回することによつてはじめて、それ以後に行われる取引につき元売業者を特別徴収義務者として取り扱いうることになるものと解さなければならない。けだし、このように解するのでなければ、特約業者にあたるものとして登録証票の交付を受けた者と取引する元売業者の地位はきわめて不安定なものとなるからであつて、この結論は禁反言の原則からしても当然のことというべきである。これを本件についてみると、仮に鱗商事が法定の特約業者にあたらぬ者であつたとしても、同商事を特約業者と認定して登録証票を交付した被告の行為が何人の目からみても明らかに誤りであつたとはいえず、この証票の交付によつて、原告は同商事に対し税抜きで軽油を売り渡すという特段の行為に出たのであるから、後日にいたり、被告が右証票交付行為を取り消したと称して、既往の取引をもあらたに課税客体とし、原告をその特別徴収義務者として取り扱うことはとうてい許されない。

第五原告の主張に対する被告の答弁

一、原告の主張する本件の事業関係のうち、原告と石田との関係及び原告が鱗商事と昭和三八年四月九日にその主張のような契約を締結した事実は知らない。鱗商事が同年四月一六日以降原告から軽油を引取つたことは認めるが、同商事が倒産したため、被告が原告に対し同商事の滞納引取税額を支払わせようとしたとの点は否認する。その他、被告の前記主張に符合しない部分は争う。

原告は、鱗商事との間に昭和三八年四月九日に締結した契約が法にいう「販売契約」であると主張するが、従来原告が特約業者を選定した場合の取扱いをみると、被告がさきに述べた業界の慣行と同じく、厳格な信用調査等を経たうえ、「販売代理店契約書」という所定の書面(乙第二号証)によつて販売契約を締結し、その内容もほぼ被告の前記主張のような事項について厳重に規制しており、また取引先の分類上も一般需要家に対する販売とはまつたく別個に扱つているのであつて、かような点からしても、原告のような信用度の高い大手元売業者が、明確を期すべき販売契約を口頭で締結するというようなことはとうてい信じがたく、たんに販売契約締結の予定ないし準備中であつたにすぎないことはさきに述べたとおりである(業界では、販売業者をすぐに特約店とすることは稀で、一定期間特約店とし、その間の販売実績いかんにより特約店に昇格させる例が多い)。なお、原告の主張する現金担保の点についていうと、元売業者が特約業者と取引を開始するにあたつては、特約業者から不動産その他相当額の担保を提供させ、かかる担保があればこそ、当該特約業者からの注文に応じて必要量の軽油を迅速に供給しているのである。そして、この担保は、特別の事情がない限り、増担保されることはあつても、解除されることはなく、現金の担保の場合は、差入額が取り崩されずに繰越されていき、また取引量は右担保額の約一・五倍にも及び、これによつて元売業者は自社軽油の販路の拡張をはかつているのが通常である。しかるに、本件の場合は鱗商事が原告に差し入れた現金は逐次取り崩されているばかりでなく、同商事との取引額も常に右差入現金の範囲内に限られていたのであるから、右現金が真の担保(いわゆる差入保証金)でないことは明らかである。

二、登録証票交付行為の効果に関する原告の主張もまた誤りである。すなわち、何人が軽油引取税の特別徴収義務者であるかは、法第七〇〇条の一一第一項及びこれにもとづく条例第一〇三条の六によつて法定されているのであつて、登録申請やその受理ないし登録証票の交付によつて定まるものでなく、換言すれば、登録証票交付行為は、右の特別徴収義務者に義務者としての自覚と認識を深めさせ、あわせて課税客体の把握を容易ならしめる徴税技術上の見地から特別徴収義務者たることを事実上確認するだけのことであり、登録申請やその受理はそのための手続行為にすぎない。したがつて、課税主体が本来特別徴収義務者でない者からの登録申請を受理して、その者に登録証票を交付したとしても、それによつてその者が特別徴収義務者となつたり、あるいは本来の特別徴収義務者がその義務を解除されるということはありえず、また課税主体が右交付行為に拘束されて、当該証票の交付を受けた者だけを特別徴収義務者として取り扱わなければならないという法的効果を生ずるものでもない。このように登録証票交付行為が法的効力を有する行政行為でない以上、その「取消し」というようなことはありえず、したがつてその取消しの効果が将来に向つてのみ生ずるなどと解すべきなんらの根拠もない。被告が昭和三八年一〇月一二日付で鱗商事に対してした通知は、同商事が特別徴収義務者に該当しないことを明確にする意味でしたたんなる事実上の通知にすぎず、この通知と原告の特別徴収義務の有無とはまつたく関係がない。また、原告は、その主張の根拠として禁反言の原則をも援用するが、原告は、みずからも認めるとおり、鱗商事に対する被告の登録証票交付前である昭和三八年四月一六日からすでに税抜きで同商事に軽油を販売していたのであり、右証票交付行為を信じたればこそそのような特段の行為をしたという関係にはない。のみならず、被告がさきに主張したとおり、原告は鱗商事とともに、被告に対し、近く販売契約を締結するから同商事に登録証票を交付されたい旨申し入れ、いわば被告を欺罔して右登録証票を交付させたものであるから、かえつて原告側にこそ責められるべき事情があり、原告が前記のような主張をすることは信義則上も許されないといわなければならない。

第六証拠関係<省略>

理由

一、原告が地方税法第七〇〇条の二第一項第二号に定める軽油その他の石油製品の元売業者で、同条の一一第一項及びこれにもとづく東京都都税条例第一〇三条の六の規定により、自己の営業所において直接管理する軽油の引取に対する軽油引取税の特別徴収義務を負う者であること、原告が被告に対し、昭和三八年四月から同年八月までの各月に徴収すべき軽油引取税の各納入申告書を提出したところ、被告が同年一一月一九日付で本件更正処分をしたこと、これに対し、原告は同年一二月三日付で東京都知事に審査請求をしたが、昭和四〇年三月二日付でこれを棄却されたこと、訴外鱗商事株式会社が昭和三八年四月から同年八月までの間に原告から別表販売量記載の軽油を引取つたこと(以下これを「本件軽油の引取」という)、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、被告は、右鱗商事は法第七〇〇条の二第一項第三号に定める特約業者にあたらないから、同商事の本件軽油の引取は同条の三第一項により軽油引取税の課税客体となるものであり、元売業者たる原告にその特別徴収義務があると主張するのに対し、原告は、同商事が法定の特約業者であり、したがつて同商事の本件軽油の引取は法第七〇〇条の三第一項かつこ書の規定により軽油引取税を課税されないものであるから、原告にその特別徴収義務もない旨主張する。すなわち、法第七〇〇条の三第一項によれば、軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取を課税客体とし、その引取を行う者に対して課税されるものであるが、例外として、特約業者の元売業者からの引取及び元売業者の他の元売業者又は特約業者からの引取は課税客体から除外されており、また同条の一一第一項及びこれをうけた都税条例第一〇三条の六の規定によれば、特約業者又は元売業者は、自己の営業所において直接管理する軽油の引取に対して課税される軽油引取税につき、その特別徴収義務を負うものとされているから、本件においては、鱗商事が右の特約業者にあたるか否かによつて、同商事の原告からの本件軽油の引取が軽油引取税の課税客体となるかどうか、したがつて元売業者たる原告にその特別徴収義務があるかどうかが決定されるわけである(なお、右の特別徴収義務と法第七〇〇条の一二の規定による登録との関係については後にふれる)。

そこで、以下この点について判断する。

(一)  法第七〇〇条の二第一項第三号は、軽油引取税における特約業者の意義を、「元売業者との間に締結された販売契約に基いて当該元売業者から継売的に軽油その他の石油製品の供給を受け、これを販売することを業とする者をいう。」と定めている。そして、右の元売業者とは、「軽油その他の石油製品の精製業者又は輸入業者その他これらに準ずる者のうち軽油その他の石油製品を販売することを業とするもので自治大臣が指定するものをいう。」(同項第二号)のであるが、この元売業者と特約業者との間に締結される「販売契約」がいかなるものを指すかについては、他にこれを定義した規定がなく、必らずしも明らかではない。しかしながら、法が、軽油の販売業者の中で特約業者なる者を認め、その者の元売業者からの軽油の引取に対して軽油引取税を課税せず、当該軽油が特約業者から引取られる段階ではじめて課税するとともに、その軽油引取税を特約業者に特別徴収させうることとした趣旨を考えてみると、軽油引取税は、これを軽油の流通のどの段階で課税した場合でも、結局においてその税負担が当該軽油の最終の消費者に転嫁させることには変わりがないのであるから、徴税技術上からすれば、できるだけ軽油が分散しない元売業者からの引取の段階で一律に課税し、元売業者に特別徴収させるのが便宜である(かくして課税された軽油に係るその後の引取は、法第七〇〇条の五第三号により課税免除となる)が、それでは税収入が元売業者所在の道府県に偏在するなどの不都合があるので、各元売業者の精製又は輸入した軽油の大部分が、それぞれ、全国的に所在する特定の販売業者によつて継続的に引取られたうえ販売されている実情にかんがみ、この販売の段階でならば右の不都合も少ないことを考慮して、かかる販売業者を特約業者と定め、前記のような取扱いをしたものと解される。かような法の趣旨と、特約業者の意義を定めた前記規定のその他の要件を合わせ考えると、元売業者との間に締結される「販売契約」とは、特定の元売業者と販売業者との間において、当該元売業者が当該販売業者に対し自己の軽油を継続的に供給し、当該販売業者がその軽油を他に販売することを内容とする契約をいうものであつて、かつ、それをもつて足り、また、その方式についても、書面によるべきことを定めた法令又は条例の規定は存在しないから、口頭による契約であつても差支えないと解するのが相当である。

被告は、わが国における軽油取引業界の実情をあげて、法にいう「販売契約」とは、たんに販売業者が元売業者から継続的に軽油等の供給を受けて、これを販売することを内容とするだけでは足りず、元売業者から販売業者に対する軽油等の供給条件についてはもとより、当該販売業者の行う右軽油の販売方法、販売区域、販売価格等についても明確かつ厳重な規制を含むものであることが必要であり、かような契約によつて元売業者とあたかも親子のごとき密接な関係を有する販売業者でなければ特約業者とはいえないと主張する。たしかに、元売業者との間に右のような内容の契約を締結した販売業者(被告のいわゆる特約店)が法の定める販売契約を締結した特約業者の典型的なものにあたることは明らかである。しかし、もともと、元売業者が自己の軽油等を引取つてこれを販売する販売業者に対し被告のいうような規制を加えるかどうかは、もつぱら当該元売業者の営業政策、相手方の信用度その他の具体的事情によることであつて、規制の程度、方法等も一定しているわけではないから、そのいかんにより、両者間の軽油の引取が軽油引取税の課税客体となるかどうか、したがつて何人が右引取税の特別徴収義務を負うかが左右されるとしたのでは、とうてい徴税の確実・迅速を期することはできないし、また、前段に述べた法の趣旨からしても、元売業者から軽油等の継続的供給を受けてこれを販売するという基本的関係があるほかに、更に右のような規制を受けている販売業者でなければ、特約業者たりえないと解すべき合理的理由はまつたく認めがたい。よつて、被告の前記主張は採用することができない。

(二)  そこで、本件をみるのに、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一ないし一九、乙第一号証の二、三と証人浜口裕彦、同大滝悟、同高村三智男の各証言を総合すれば、次の事実を認めることができる。

昭和三八年三月下旬頃、かつて原告の前身スタンダード・バキユーム・オイル・カンパニーの代理店に勤めていたことのある訴外石田順一が原告本社職員の紹介で原告東京支店を訪れ、軽油の販売会社を設立して知合いの国際自動車興業株式会社、東急建設株式会社等に軽油を納入するから、軽油類の取引をしてもらいたいとの申出をし、翌四月五日同人が代表取締役となつて都内神田末広町二二番地に石油製品の販売等を目的とする鱗商事株式会社(資本金一〇〇万円)を設立したので、原告東京支店では、担当の販売第二課長浜口裕彦が右申出を審査したうえ、これを承認することとなり、同年四月九日、鱗商事との間において、原告が同商事に対し自社軽油エツソ・デイーゼルを次の条件で売り渡し、同商事はこれを他に販売するという契約で口頭で締結された。すなわち、この契約においては、両者間の取引量を一応一箇月約一〇〇キロリツトル、年間の総取引量を約一、二〇〇キロリツトルと予想し、その売渡価格は、鱗商事が軽油引取税を申告納入するという諒解のもとに一リツトル当り一二円五〇銭の税抜価格とし、代金支払方法としては、とりあえず向う約一箇月間の予想取引額に見合う現金二〇〇万円を鱗商事から原告に差し入れておき、これを月末に代金に充当して決済するものとしたが、その後においても同商事が引きつづき右の差入現金を追加補充し、この現金の現在額の範囲内において右同様の月末充当決済の方法により取引を継続していくという取り決めであつた(そのほか、軽油の引渡場所は原告の鶴見油槽所、運送方法は油槽トラツクと定められた)。この契約にもとづき、鱗商事は即日現金二〇〇万円を原告に差し入れたので、原告東京支店では、顧客と継続的取引を開設した場合に作成する顧客簿(甲第一号証)を同商事についても作成し、所定の内部手続を経たのち、同月一六日から後記事情により取引を中止した同年八月末までの間に三百数十回にわたり、別表販売量記載の軽油をいずれも前記税抜価格ないしそれより多少値引きした価格で継続的に同商事に売り渡し(その代金合計約二、一〇〇万円)、同商事はこれを訴外豊島石油、滝野川商事等の同業者等に販売していた。そして、この間、鱗商事は原告に対し、前記二〇〇万円のほかに、常に取引額を上廻るように前後二〇回位にわけて合計二、〇〇〇万円余の現金をあらかじめ追加差入れしたので、原告との取引代金は右現金により毎月末に滞りなく充当決済された。一方、鱗商事は、同年四月九日千代田税務事務所に対し、原告の特約業者として、法第七〇〇条の一二第一項により軽油引取税特別徴収義務者としての登録を申請し、同日付で同第二項による登録証票の交付を受けたうえ、自己の行なつた前記販売(同商事からの引取)に対する同年四、五月分の軽油引取税を申告納入したが、その販売価格は税込価格を下廻る安値であつたため(いわゆるバツタ売り)、やがて経営不振に陥り、同年六月分以降の軽油引取税を滞納するようになつたので、調査の結果右安売りの事実を知るにいたつた千代田税務事務所から原告に対し、同商事との取引を中止するよう勧告し、これに応じて原告は同年八月末をもつて同商事との取引を打切つた。もつとも、同商事はその後同年一一月三〇日にも原告から軽油を引取つているが、これは同商事が先に入手していた原告の出荷指図書を利用して事情を知らない原告の油槽所から勝手に引取つたものである。

以上のとおり認められ、なお、鱗商事の前記バツタ売りの点につき、原告がこれを容認し同商事において軽油引取税を納入しえなくなることを知りながら、安売りさせるために本件軽油を供給したと認めるべき証拠はない(右認定事実中、石田順一が鱗商事の代表取締役であつたこと、原告が同商事に対し同年一六日以降八月末までの間に別表記載の軽油を売り渡したこと、同商事が同年四月一九日軽油引取税特別徴収義務者としての登録申請をし、登録証票の交付を受け、同年四、五月分の軽油引取税を申告納入したことは、いずれも当事者間に争いがない)。また、証人大滝悟、同高村三智男は、原告東京支店の販売第二課長である浜口裕彦が、同年四月一九日及び七月二三日の両度にわたり、千代田税務事務所係員右大滝に対し、原告はまだ鱗商事といわゆる特約店契約を締結しておらず、その予定ないし準備中である旨言明したと供述するが、証人浜口裕彦の証言と対比し、かつ、原告がすでに同年四月九日に鱗商事と前記契約を締結し、しかも同月一六日から税抜価格で同商事に軽油を売り渡している事実に徴すると、にわかに措信することができない。そして、ほかに以上の認定を覆えすに足りる証拠は存在しない。

右の認定事実によれば、原告と鱗商事との間に締結された前記契約は、たんなる軽油の売買契約ではなく、元売業者である原告が鱗商事に対して自己の軽油を継続的に供給し、同商事が右軽油を他に販売することを内容とする契約であつたと認めるべきであり、この契約にもとづき、同商事が原告から継続的に別表販売量記載の軽油を引取り、これを販売することを業としていたことは明らかである。もつとも、成立(原本の存在を含む)に争いのない乙第二号証、第六、七号証の各二、第九号証及び前掲証人浜口の証言によれば、原告が軽油等の販売業者と右のような契約を締結するときは、相手方の信用状態等について慎重な調査をし、十分な担保を徴したうえ、「販売代理店契約書」という所定の契約書(乙第二号証)を取り交わし、これによつて、原告が相手方に軽油等を供給し相手方がこれを販売するという基本的約定のほかに、相手方の販売区域(ただし、一ないし二の都府県単位である)、相手方が原告を代理代表することの禁止、相手方に対する原告の商標の使用許可、受渡済商品の保管責任の帰属、相手方の代金支払及び担保提供義務、解約方法、管轄裁判所等を定めるのが通常であるのに対し、本件の場合は、契約にあたりさして厳重な信用調査等が行われず、契約書の作成、担保の徴収もなく、取引条件としても、前認定のほかに格別の定めはなかつたことが認められるが、これらの違いは、本件取引が当初から一種の代金前納方式であつたことなど考慮すれば、さほど異とするに足りず、いまだ前記認定を妨げるものではないし、また、鱗商事の販売方法が正常でなかつたことから直ちに原告との契約内容が特殊異常なものであつたとすることもできない。してみると、(一)に述べたところにより、原告と鱗商事との間に締結された前記契約は、法第七〇〇条の二第一項第三号にいう「販売契約」にあたるものというべきであり、同商事がこの契約にもとづいて原告から継続的に軽油を引取り、これを販売することを業としていたことは前記のとおりであるから、結局、同商事は、原告からの本件軽油の引取につき、右第三号の定める特約業者に該当するといわなければならない。

三、ところで、法第七〇〇条の三第一項によれば、特約業者の元売業者からの軽油の引取は軽油引取税の課税客体から除外され、特約業者からの引取に対して右引取税が課税されるのであるが、この規定の適用上、当該特約業者が法第七〇〇条の一二第一項及び条例第一〇三条の八第一項により軽油引取税特別徴収義務者としての登録申請をし、法第七〇〇条の一二第二項による登録を受けているかどうかは問わないと解すべきである。けだし、軽油引取税の特別徴収義務について定めた法第七〇〇条の一一第一項とこれにもとづく条例第一〇三条の六は、右法第七〇〇条の三第一項の規定を前提として、特約業者又は元売業者としての要件を具える者であるかぎり、自己の直接管理する軽油の引取(すなわちその者からの軽油の引取)に対して課税される軽油引取税につき、その者が当然に特別徴収義務を負うことを規定したものであつて、前記登録は、特約業者又は元売業者が右のような地位にあることを確認する行為にすぎないからである(反面、特約業者としての要件を具備しない者が誤つて登録されたからといつて、その者の元売業者からの引取が課税客体から除外されたり、当該元売業者がその特別徴収義務を免れたりするものではない)。そうすると、鱗商事の原告からの本件軽油の引取は、同商事の右登録の前後を問わず、すべて軽油引取税の課税客体とならないものであり、したがつて元売業者たる原告にその特別徴収義務もないといわなければならない。

四、以上によれば、鱗商事が法定の特約業者にあたらないとの前提のもとに、同商事の原告からの本件軽油の引取が軽油引取税の課税客体になるものとし、原告にその特別徴収義務ありとしてなされた本件更正処分は違法であり、取消しを免れない。よつて、右処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曽競 佐藤繁)

(別表省略)

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